2023年入試概況

2023年2月1日午前に首都圏(1都3県)の私立中学校を受験したのは43,000人あまりでした。ボトムであった2015年の約36,000人から7,000人ほど増え、中学受験バブルと言われた時代のピークであった2007年の約44,000人に迫っています。

受験者数の増減の短期的・中期的な原因は小学生数の増減、景気、大学受験の難化、公立不信にあると考えられます。

小学生数の増減から見ていきましょう。全国的な少子化の傾向に反し、ここ数年ほど、受験率の高い東京都の小学生数が増加傾向にあります。ただ、小学生数の増加より受験率の増加の方が受験者数への影響は大きいと言えます。実際、過去の中学受験バブル期(1990年前後とゼロ年代)は東京都の小学生数が減っていた時代でした。

次に、景気です。たしかに、バブル崩壊後の1990年代後半とリーマンショック後の2010年代前半は、概して受験率は下降気味でした。しかし、現在、景気はちょうど曲がり角に立っているところですし、受験勉強を始めてから実際に受験するまでには3年ほどかかりますので、景気の受験率への反映にはタイムラグがあるのが普通です。景気の影響が出るとしても、しばらく先のことでしょう。

続いて、大学受験の影響を見てみましょう。中学受験バブル期と重なる1986年から1992年は、大学受験関係者にとっては「ゴールデンセブン」と呼ばれる時代でした。第二次ベービーブーマーが大学受験期を迎え、定員の倍ほどの数の受験生が殺到して、受験生の半数あまりしか大学に入ることができないというほど、大学受験が難化した時代だったのです。今回の中学受験者数の増加の当初の原因も、大学入学共通テストの負担増と入学定員の厳格化によるいわゆる早慶マーチなどの私立大学の難化にあったと考えられます。実際、中学受験者数の増加を牽引したのは当初は付属校人気でした。大学付属校に入学すれば、大学入学共通テストや私立大学の一般入試を避けることができるというわけです。なお、私立大学の入学定員の厳格化は緩和の方向に向かっていますが、大学入学共通テストの負担は増す方向にあります。難関化した早慶マーチが大きく易化することはないでしょう。

最後に、公立不信です。私立校が台頭したそもそもの原因は、自治体が導入した学校群制度(学校間格差をなくすために、受験者本人の希望にかかわらず合格者を学校群内各校に割り振る制度)でした。数十年にわたる中学受験ブームの根底には、1980年代に社会問題となった校内暴力やゼロ年代に塾がしきりに煽った「ゆとり教育」への不安などの公立不信があると考えられます。今回も、コロナ禍での公立中学校のオンライン対応の遅れが連日のように報道されたことが、私立中学校の受験者数の増加の原因だと思われます。

ともあれ、私立中学校の受験は、受験者数の回復に伴い、全体的な競争の激化が見られます。一足先に人気が回復していた大学付属校は人気高止まりの様相を見せ、付属校や共学校と比べ、比較的受験が楽だった中堅進学校の男子校・女子校の入試も厳しいものとなっています。今後もしばらくは厳しい受験が続きそうです。一部では「付属校離れ」や「今年がピーク」といった意見も見られますが、楽観的な見通しは慎むべきでしょう。